レポート11:「『いくの学園は「みんなのいえ」』10 年をふりかえって~(2) 電話相談が出発! ~相談事業」を公開しました。

『いくの学園は「みんなのいえ」』10年をふりかえって~(2)電話相談が出発!~相談事業

いくの学園は2018年に設立20周年を迎えます。それに際し、20年前の1998年、学園設
立時の想いを記事にしたものをご紹介します。この記事は2008年・設立10週年の折、発行した記念誌『いくの学園は「みんなのいえ」』に掲載したものです。

●DV(ドメスティックバイオレンス)とは

ひと昔前の考え方では、女・子どもは男(父親、夫、長男)に従い、「男が自分の家の女に暴力をふるっても当たり前、何が悪い」という価値観が根強くありました。いまだにそう思っている人がいますが、もう一方では、「安心して暮らす権利がすべての人に保障されるべき」「親密な関係や自分の家で安心できることは基本的な人権だ」という考え方が広まっています。親密なパートナーから脅されたり、バカにされたり、暴力をふるわれたり、支配・管理されたり、セックスを強要されたりするのは「当たり前のつき合い方」ではなくて、犯罪、人権侵害であり、「あってはいけない、とても困ったことだ」と認識されるようになりました。そういう関係にDVという名前がつき、被害にあっている人は「自分は一人ではない」「我慢しなくてもよい」「人に助けてもらうことができる」と気づきやすくなっています。

DVのサバイバー(暴力を生き抜いてきた人)の声に耳を傾けると、身体的暴力、つまり外傷が残ったり、骨が折れたりすることだけが問題ではないことがわかります。加害者に恐怖心を植え付けられたり、生きる力を奪われたりすることこそ、DVの本質です。また、多くの加害者が被害者を「アホ」「ブサイク」「無能」「出て行け」と否定する一方で、実際に被害者が逃げ出すと徹底的に探し出そうとすることも多いのです。そのため、DVの加害者から逃げるときは危険性が高く、うまく逃げたとしても、非常に執拗な追跡が待ち受けています。被害者サポーターにとっていちばん大切なことは、「サバイバーには非がない(非があったとしても、暴力を受けてよいわけではない)」「悪いのは暴力を選ぶ加害者、そして、それを容認する社会だ」と知ることです。いくの学園では、被害当事者を決して責めることなく、その人の気持ちに寄り添いながら、その人が何を必要としているのかを一緒に考えていくことを心がけています。

●一本の電話から

いくの学園では、さまざまな相談事業を展開しています。電話相談、法律相談、カウンセリング、退所者支援事業などです。シェルターやステップハウスを運営しているので、必要があれば電話相談から入所できるのが強みです。いくの学園のサポートは、利用者のニーズに応え、幅を広げてきました。法律相談、カウンセリングなどがその例です。当事者の「必要」から全てが生まれました。当事者の「必要」を知ることのできる、最初の窓口が、一本の電話なのです。

いくの学園の相談電話は、前身の婦人保護施設時代より継続してきたものです。番号も同じ。最近では、利便性から携帯電話の回線も増やしています。

電話相談は、シェルター開設の準備期間中もずっと続けており、準備期間の1997年度は、254件の相談がありました。乳幼児を抱え身動きがとれず、夫の暴力に苦しむ女性、子どものためにと20年以上我慢してきた女性など深刻な相談が相次ぎました。

夫・恋人からの暴力110番

1998年、シェルター開設当初の3月7日は、マスコミや女性弁護士の協力を得て、「夫・恋人からの暴力110番」を実施しました。テレビ・新聞などの告知の効果か、予定の時間を迎えると同時にベルが鳴り、10時から17時の実施時間に30件もの相談が寄せられ、交代で相談にあたった7人の女性弁護士は休む暇もないほどでした。常日頃から抱えている思いがたくさんあり、一時間を越す電話の人もありました。相談は、大阪だけでなく近畿各地から寄せられ、年齢層も20代から70代まで。この110番の影響もあり、1997年度の相談254件のうち、115件が3月に受けたものでした。

また、2001年10月13日には、DV防止法が一部施行されるのを機に、同じ民間シェルターの「スペースえんじょ」や女性団体「WANA関西」との協力で、「民間DV防止ホットライン」を行いました。当日は、学園のサポーター・スタッフである弁護士・保健師・カウンセラー・ケースワーカーを含む13人による体制で相談に対応しました。ホットラインは、久しぶりに会うサポーター同志が友好を暖めたりと和やかな雰囲気で始まりましたが、毎日テレビやNHKラジオのお昼のニュースでホットラインの案内が流れてからは、夕方6時の終了まで息つく暇もないほどでした。とくに、学園のよさが発揮されたのは、1件の相談に対して、カウンセラー→ケースワーカー→弁護士、ケースワーカー→保健師→ケースワーカーと、必要に応じてそれぞれの専門家が対応できたことです。

このように、いくの学園の立ち上げ時期は、DVに関する社会的な関心も高く、マスコミを利用しながら相談電話を宣伝していました。


※この記事は10周年記念誌「みんなのいえ」より一部抜粋いたしました。当時の時代背景や内容を尊重し、表現は原文のままです。

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