2020年11月17日(火)に、大阪府主催、近畿ろうきん・連合大阪・いくの学園共催でセミナーを開きました。このメンバーでの開催は3年目でした。前回のセミナーでは、国際労働機関(ILO)が進めている「仕事の世界」のDV対策を取り上げました。ILOでは、DVは労働者や現場の生産性に重大な影響を与える問題として位置付けています。今回は、遠藤智子さんと連合大阪の香川功さんの話があり、DVや女性に対する暴力全般を労働関連問題として考える、という視点を更に発展させました。
遠藤さんの話は、以下に大森順子さんが報告しています。
ここでは、香川さんの発表を簡単にまとめます。女性労働者の相談は、コロナによってこれまでの傾向が強まったそうです。非正規労働の相談者は57%で、業種では医療・福祉、飲食やサービス業の相談が増えました。休業補償以外に特に増加した内容は、パワハラなど差別問題と、解雇や契約打ち切りなど雇用関係の問題です。
遠藤さんも労働組合に長年関わってきた者として、今回顕在化した風俗産業の労働者や非正規労働者、とりわけ立場が弱い女性労働者全般の権利に労働組合がもっと積極的に関わるべきだとアピールしました。
コロナ禍のDVの実態と労働相談から見える課題
~誰もが安心して暮らせる社会とは~
DV相談員の私が共感した学びとこれからの支援の在り方
大阪府内某市 女性相談員
シングルマザーのつながるネット まえむきIPPO
大森 順子
2020年という年は、新型コロナウイルスにより社会のあり方がガラッと変わってしまった年として、私たちの記憶に深く焼き付けられることとなるだろう。この年、私はDV被害者からの相談を主に受ける女性相談員(正式名称は婦人相談員)として働いてから4年目を迎えていた。4月から突然始まった2班に分けての交代出勤、怒涛のごとく押し寄せた特別定額給付金のDVによる避難者に対する支払い支援、6月には正常勤務に戻ったものの、特別定額給付金に加えてコロナ関連の貸付金の支援等、女性相談員としての忙しさはピークだった。コロナはいったん治まったかに見えたが、また第2波が来たと言われ、12月現在も罹患者は増える一方である。私たちは、すでにコロナと共存する社会を生きている、そんな思いが強くなっていた11月17日、「コロナ禍のDVの実態と労働相談から見える課題」と題したセミナーがあった。DV相談件数が急増している背景で、いったいどのようなことが起こっているのか、現場で私が感じている切迫した危機感を確認したくて参加した。
第1部は、「よりそいホットライン」を運営している一般財団法人社会包摂サポートセンターの事務局長である遠藤智子さんのお話だった。よりそいホットラインは電話による相談であるが、電話をかけてくる相談者は40代~50代が中心で、そのうち6割は女性。一方SNS相談のよりそいチャットでは20代~30代が中心で、自殺に関しては20代以下が多数を占める。初めて出会ったコミュニケーションツールを、その後も利用する割合が高いからなのだろう。よりそいホットライン、よりそいチャットに、DV相談+も含めた事業で見えてきたこととして語られた内容は衝撃的だった。
それは、これまで水面下でずっと絶えることなく続いてきた暴力が、ここにきて一気に表面化したということ。特別定額給付金が、すべての人に一律給付されたはずなのに、その受け取りが世帯主になっていたために初めて自分がDV被害者であることに気づいた人が続出したのだ。私のところにも、「DVではないんですが、夫が給付金をくれないので、何とか受け取る方法はありませんか」という電話が何本か入っていた。そうなのだ、彼女たちは夫の支配下にあり、コントロールされているが身体的な暴力を受けていないのでDVではないと思い込んでいたのだ。それが、どうもおかしい、本来手にできるはずのお金が受け取れない、もしかしてこれってDVなのかな、と不審に思って電話をかけてくる。そこでDVの説明を聞いて、初めて自分が被害者であると気づくのだ。さらに、ていねいに相談の中身を聞いていくと、そこには様々な問題が複合的に重なって現れていることが見えてくる。遠藤さんによると、たとえば、コロナにより夫が仕事を失い、酒びたりになり、自分は朝から晩までパートに行くことになったが、その給料は夫が酒代に使ってしまう、そして夫の機嫌で殴られる。子どもは学校が休校になり、食費はかかるが自分の時間はなくなりストレスだけが増えていく、等。また、若年層には自殺願望の強化が見られ、その背景には家族が抱える問題がうかがえるとも言う。両親の借金により風俗で働かされる、コロナの影響で父が家にいることが増えて父と兄から性暴力を受けた、等。家族そのものがはらんでいる葛藤が、コロナの影響でさらに強化されたと言える。
コロナ禍のDV・性暴力相談の特徴としては、加害者が家にいる時間が長くなったためDVが激化、精神的暴力と経済的暴力がセットになっている、特別定額給付金をめぐって「被害の自覚」が生まれた、風俗産業での悩みの相談が可視化されてきた、若年層での被害が顕在化した、等が挙げられた。
これらの課題について、今後も相談は増えるだろうから直接支援できる資源が必要、若年層の性的搾取を予防する取り組みが必要、性虐待を発見する対応を地域社会の常識にする、人材の育成、などの提言が出された。
日常的にDV相談を受けてきた私は、家族の中に暴力があることに対して、支援する側に想像力が欠けている場合があると感じている。家族が暴力をふるっているにもかかわらず、元の家族に統合しようとする動きや、家族こそが問題解決の場とするような言説があり、これでは更なる暴力の連鎖を生んでしまうだけではないかと危惧することがある。時代の変化をしっかりと見つめ、家族が良きものであるという「家族幻想」の縛りを解きほどき、確かに必要とされる支援を構築することが大切だ。コロナが家族の中に暴力があることを顕在化させた今、国レベルの制度や法律による解決策も欠かせない。実際に被害にあっている人の声をしっかりと聴き、確かに受け止め解決する公的支援(公助)の確立と、家族単位ではなく個人単位の社会保障の仕組みをこそ、確立するべき時であると強く感じた。今回のセミナーは、まさに、今私が感じている課題について深く考え、その解決策を示唆してくれるタイムリーで中身の濃い学びを提供してくれた。