昨年度に引き続き、大阪府主催、近畿ろうきん・連合大阪・いくの学園共催でセミナーを開催しました。「暴力とハラスメントをなくすために~だれもが大切にされる社会とは~」と題して、「仕事の世界」と「家庭の中・親密な関係の世界」の暴力を取り上げました。いつくか印象的な話を紹介します。


ILOの100周年総会で「仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約」が採択されました。保護の対象は「契約上の地位にかかわらず、あらゆる労働者及び従業員」さらに「研修中の人やインターン、見習い実習生、雇用契約が終了した労働者、ボランティア、求職者や求人広告への応募者」。また、職場以外に、いくつもの関連現場が含まれます(支払いを受ける場所や休息・休憩、食事をとる場所、洗浄・衛生設備や更衣設備を用いる場所、出張中や研修中、仕事関連の行事・社交活動中、仕事に関連した通信・コミュニケーションの過程、使用者の提供する宿泊設備、通勤中)。聞き慣れない「仕事の世界」という表現はこのような幅広い捉え方を可能にしています。これまで守りにくかった家事労働者(労働現場が雇用主の家という密室の中)も対象となるのは画期的だと田口さんが指摘されました。


この条約は、加盟国に暴力とハラスメントを定義し、禁止する法律の制定を求めます。そして、職場と労働者に悪影響を与えるドメスティックバイオレンス(DV)に対して、仕事の世界における対策も求められます。これまでDVが「個人の問題」として放置されてきたのと真逆の捉え方です。日本が批准するためにはまず、条約の存在を広報し世論を高め、法整備の必要性を国に迫ることが重要だと強調されました。個人に向けて、暴力とハラスメントは「我慢するものではない」と伝えるのも大事ですが、それを裏付けるのは、加盟国の責任として謳われている「断固として容認しない環境を全面的に整備する」ことです。田口さんは、女性がトップにも中間管理職にも増えれば、セクハラが減るはずだと、締めくくりました。


田口さんの話を受けて、第二部では、いくの学園副理事長の髙坂明奈弁護士が「家庭の中で起こる暴力について」講演しました。具体的な事例を交えながら、殴る蹴る以外の、わかりにくいとされる暴力に焦点を当てました。例えば、モラルハラスメントと言われる精神的暴力や嫌がらせ、被害者の親としての権威をおとしめて親子の信頼関係を壊す子どもを利用した暴力、経済的な締め付け、加害者独自のルールの押し付け、長時間の説教などによるマインドコントロール等。最後の締めとしては2点程。SNSやスマホによってパートナーを簡単に監視できるようになっていますが、それは愛だと勘違いしないでほしいことと、加害者を更生させる努力の責任は本人と第三者にあって、被害者の責任ではない、しかもプログラム一つでは治らず、加害者の自覚と日常的な努力が必要だと念を押されました。


一人一人にできること、意識と行動両面に対してたくさんのヒントが得られる会でした。