2022年5月19日に「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」が成立し(2024年4月施行)、2022年11月~2023年3月まで有識者会議の中で基本方針が議論され、3月29日にパブリックコメントの結果を受けて、最終的な方針が発表されました(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32287.html)。

女性の人権を謳う女性福祉の初めての基本法の存在に賛同しながら、支援体制がより充実されるよう、いくの学園もいくつかの要望を出しました。ご参照ください。

要望 (国の基本方針に対するパブリックコメントを改変)

★配偶者暴力防止法は、被害当事者に性別の隔ては無いが、男性被害者の一時保護施設の数が少ない等の問題がある。新法は、女性が女性であることにより被害に遭いやすく、困難な状況になりやすい点に注目しており、その点に異論はないが、当然、被害は男性にも起こり得ることなので、トランスジェンダーに限定せず、男性被害者が相談した場合も対応できるよう、柔軟に運用するよう基本方針に取り入れてほしい。

★配偶者ではなく、その他の家族からの暴力で避難していた男性被害者が、住民票の支援措置のために相談証明を求められたが、相談の聞き取りをしてくれるところが、なかなか見つからなかったことがある。市町村の女性相談支援員も相談証明が出せること、また、性別に関わらず、同じように困難な状況にある男性被害者に対しても相談証明を出せるよう、全国統一のルールにしてほしい。男性も、暴力被害の影響等について専門的に訓練を受けた相談員から聞き取りをしてもらいたい。

★「都道府県及び市町村が…女性の人権の擁護…性的な被害からの心身の健康の回復、生活再建等に必要となる…地域福祉との連携の強化を図っていく必要がある」ことに賛同。これまで、地域福祉(高齢、障害、生活困窮等々)には上記の視点が薄く、社会福祉の教育の中でもほとんど登場しないテーマである。支援が必要な女性に気づく視点(意識)と、適切に支援をするための具体的な方法が必要である。今回の支援法が活かされるためには、地域福祉全体に対する働きかけが必要である。

★市町村の女性相談支援員は、直接、被害当事者から相談を受ける立場であり、同時に複数の調整機能を求められる重要な役割を担う。過重労働とならないよう、また、被害当事者の支援がスムーズに進むよう、女性相談支援員の配置については、人口比で配置人数の目安を設定し、複数配置、常勤雇用を推奨するように定めてほしい。(本当であれば義務化が望ましい。)
「一時保護するか・しないか」という点だけで、「支援する・しない」を決定せず、親戚宅やホテルへの宿泊、シェアハウスへの避難的入居の場合も、継続して丁寧に女性相談支援員が対応することを明確化し、それが可能な体制のモデルを提示してほしい。庁内の位置づけ(どこの部署に配属される等)によって、責任を持った仕事がしやくなることがあるので、連携がしやすくなる配属を検討、基本計画に明記するように推奨してほしい。

★旧婦人保護施設が無い県もあるので、無い県には新設してほしい。また、暴力被害の状況から、被害当事者が他府県へ避難することも多いので、県と県の連携がスムーズとなって、他府県の女性自立支援施設へ本人の希望に基づいて入所できるよう、調整方法を明確にしてほしい。
また、被害当事者が置かれる状況は様々で、加害者からの追跡の恐れが無い場合もあり、秘匿性のある施設が必要な人とそうでない人を同じ施設に入所させることは、入所者の自由を制限することになりやすいので、女性自立支援施設を複数設置してほしい。また、一時保護だけでなく、長期の女性自立支援施設の利用も、民間団体に委託可能とする等、柔軟な仕組みを実現してほしい(小規模グループホームのような仕組み)。トラウマの影響等で見守りが必要な人は、いずれは障害のグループホームに入居することが適当かもしれないが、それまでの準備期間として女性自立支援施設利用の意味は大きい。女性自立支援施設の複数化・多様化によって、被害当事者の選択肢を増やせる仕組みにしてほしい。本来は見守りの必要な人が、いきなり生活保護での居宅設定となって、生活保護ではフォローしきれず、孤立し、支援につながらない状態となっている人は少なくない。また、女性自立支援施設の委託化が可能となるなら、夜間体制が可能とする単価設計にしてほしい。

★一時保護の後、安易に民間団体が運営するステップハウス等につなげて、責任を民間団体に負わせるのではなく、民間の支援に継続的に単価を発生させ、民間団体の運営の安定化を図る仕組みを作ってほしい。それが支援の安定化につながり、被害当事者の利益となる。

★アウトリーチだけでなく、その後の説明に登場する「居場所」「一時滞在場所」「同行」等も含めて、委託費の財源を明確にし、単年度ではなく、継続事業にできるようにしてほしい。また、「都道府県及び市町村は、国による調査研究や研修等、予算事業等も活用」とあるが、上記のアウトリーチ事業等も含めて、市町村が国の予算事業を申請・活用しやすい仕組みを作ってほしい(事業の検討や申請も労力を伴うので)。各自治体の基本計画にどの事業を活用するか具体的に明記するように推奨してほしい。

★相談者が一時保護を求めた場合、携帯利用やその他の要件で、すぐにシェルター入所できない場合も、ホテル泊を一時保護と同じ扱いにして、本人の費用負担が発生しないよう、全国統一のルールにしてほしい(相談者本人が、親戚宅や友人宅を頼らなくて済むようにする)。

★災害時にペットも避難所の利用が可能になっている等、「ペットは家族の一員」という意識が社会的にも一般化している今、暴力被害でのシェルター利用もペットを連れて行くことが可能となるよう、ガイドラインを設けてほしい。

★女性自立支援施設だけでは、退所者のアフターケアには限界がある。また、アフターケアは、女性自立支援施設を利用しなかった人にも必要である。例えば、地域の男女共同参画センターにもアフターケア機能を持たせ、すでに暴力の環境から離れている人も後遺症について相談できる窓口を設けてほしい。

★アフターケアは、生活上の問題とトラウマによる心理的な問題と、単純には分けられないが、重複して抱える被害当事者も少なくない。女性自立支援施設だけでなく、複数機関でアフターケアができる仕組みを作ってほしい。また、相談者が例えばA市からB市へ転居した場合、支援が途切れる場合がある。つなぎ先を明確にし、支援調整会議等を活用し、「避難して解決」とせず、アフターフォローも制度化してほしい。オンライン・ハイブリッドなどを活用し、A市とB市それぞれの女性相談支援員が会議に出席する必要がある。支援員の仕事が増えるので加配が必要だが、引っ越して最初の会議に相談者を新しい地域で支える機関が一緒に集まれば、連携と本人の地域定着が進み、再被害防止につながる。

★「入所者のうち半数近くの女性が何らかの障害や疾病を抱えている」ことを考えると、医療や障害福祉分野に対しても、女性支援(女性の人権、被害者支援、トラウマからの回復など)に関する研修を実施することができれば、回復を遅らす二次加害を防ぎ、アフターケアができる機関を増やすことができる。現状では、トラウマを抱えた被害者のアフターケアは、障害福祉サービス事業者がすでに受け皿になっていることもあるが、トラウマの視点に欠け、配慮がないために被害当事者が傷つき、二度とサービスを使いたくないと思うようになった事例が少なくない。それを防ぐため、県による、障害福祉サービスの事業者への研修を義務化してほしい。