レポート8:「LGBT と虐待・DV の問題」を公開しました。

LGBT と虐待・DV の問題

最近では、多様な性を生きる人の総称の一つとして、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの略)がよく使われます。
多様な性を生きる人々のためのリソースセンター「QWRC(くぉーく)」より、2016 年 1 月
31 日発行された情報冊子「LGBT と医療福祉<改訂版>」※では、いくの学園が虐待と DV に関する項目を担当しました。
以下、ご紹介します。


※QWRC【くぉーく】Queer and Women’s Resource Center
ホームページアドレス:http://qwrc.jimdo.com/
「LGBT と医療福祉<改訂版>」冊子の送付をご希望の方はお問合せください
ダウンロード:http://qwrc.org/2016iryoufukushicmyk.pdf


LGBTと虐待

LGBTの子どもは、しばしば特有の虐待にさらされます。LGBTであることは本人の意思や他者からの働きかけで「変えられる」ものではないのに、周囲からの圧力が子どもたちを追い詰めてしまいます。

<LGBT特有の虐待>
・法律上の性別の強要(例:髪の毛を強制的に切る/伸ばさせる。服装や持ち物の強要)
・異性愛の強要(例:「結婚して子どもを作りなさい」など)
・「オカマ」「レズ」などの差別用語で子どもを否定・侮辱する。
・家に閉じ込めるなど行動を制限し、罪悪感を植え付ける。(例:「家の恥」
「そんな格好で外を歩くな」)
・性加害をする(性行為によって「異性の魅力を教える」「治そう」とする)
・性のあり方について模索を許さない。あるいはLGBTだと勝手に決めつける。

虐待を受けた子どもたちは寂しさから居場所を求め、ときに加害的な相手についていきます。そこで、さらなる被害をうけても「付いて行った自分が悪い」「LGBTだとバレたくない」「保護者よりマシ」などの思いを持ち、相談できません。虐待者から離れて施設に入った場合も、施設内の子どもや職員から暴力にあい、どこにも相談できないままでいることもあります。

LGBTの虐待が表面化しにくい理由

相談できない背景のひとつには情報のなさがあります。LGBTに関する正確・必要な情報は少なく、代わりにセックスに関係する情報があふれているため、自分が何者で、何を必要としているのかを子どもたちが言語化することは困難です。また、子ども自身が、周りの人にLGBTであることを悟られないように必死だったり、自分が悪い子だから虐待されても仕方がないと思い込まされていたりします。

成人後も、虐待は続きます。家に元々あるDVやアルコール依存症などの問題や、新たな虐待(例えば経済的な搾取が始まるなど)が複雑に絡み合うようになり、離れにくくなることもあります。自己肯定感の低下や、精神的な不安定さからフラッシュバックや健忘・解離、依存症に苦しんだり、安全ではない人間関係やセックス、望まない性感染症や妊娠、自殺などに追い込まれたりすることもあります。

LGBTへの虐待に対する支援

保護者が、自分や子どもを責めずに、LGBTのあり方を尊重できるようになるための情報やサポートが必要です。民間レベルで自助グループが増えていますが、教育や保育、(児童)福祉、医療機関などからの具体的な人権教育・心理教育や情報提供、フォローも重要です。子ども自身に対しても、自己肯定や安心感につながる情報を届ける必要があります。

サバイバーにとって必要なのは、見た目や法律上の性別などで決め付けられずに、しっかり話を聴いて信じてもらうこと。自分の性をどう表現し、扱い、行動し、生きるかは、基本的人権に関わります。LGBTであることが、加害の理由(言い訳)に使われ、生きづらさにつながることがない社会を望みます。

LGBTとDV

DVは、家族や恋人などの親密な関係の中で、密室のような状況で起きています。加害者は外面がよくて、気づきにくい場合が多いです。LGBTだから、女性や男性だから、障害者だから、親子や恋人だから起こるのではなく、この社会が容認しているから暴力は起こります。加害者は「相手は何でも自分の思い通りにしてくれる、さもないと暴力的・強制的な手段をとっても仕方がない」という価値観をもち、社会の側もジェンダー規範などによって、それを正当化してしまっています。身体的だけでなく、性的、経済的、精神的なコントロールもあって、離れにくいです。

<LGBTにおけるDVの注意点>

●相談しにくい
LGBTであることを周りに言っていない人、周囲から受け容れられていない人が多い。支援を求めるより、隠し通すことを優先したい人がいる。

●人的資源
仲間がいる場合、「安全確保のために切るのが必要」と考えるより、加害者とつながっている人でも、どのように安心して付き合えるのかを一緒に考える支援を求めている人がいる。
LGBTのコミュニティは狭いため、加害者と共通の知り合いを避けようと思ったら孤立する危険性が高い。

LGBTのDV被害者支援

柔軟に対応できる相談機関が増えてきています。公的保護施設では、大体の場合は、法律上の性別に基づいて相談者を「婦人保護」か「ホームレス対策」に振り分けていますが、本人の状況や希望によって、トランスジェンダーを婦人保護で無償・個別対応しているところもあります。民間では、LGBTのためのシェルターを用意した団体もあり、個室対応ができる施設が増えています。LGBTに特化していなくても、高齢者や障害者虐待に対応したシェルターなど「女性」に限定しない支援ができるところもあります。LGBTのDV相談は、様々な支援や専門知識、機能(DV支援、LGBT支援、保護施設、ケースワーク)が1か所に集約されていない場合がありますが、複数の団体・機関の協力と、当事者の立場に立った創造的な工夫によって、総合的な支援を実現することができます。

LGBTの間で加害と被害を生み続けないためには暴力的でない関係性(尊重や対等性)を学ぶデートDV講座などを男女間に限定せず、LGBTも想定して行うことが大切です。また、日頃からLGBTが生活の中で尊重・肯定される、安心できる経験を積み重ねられることが重要です。そのことで、何かあったときにも相談できるようになります。保護施設のハードおよびソフト面での受け入れ態勢の整備や、関連法令の整備(保護命令、ストーカー規制法等の対象拡大・充実と法的支援)、長期的な視点をもった支援と、それを実現するための信頼関係なども重要です。ひとりひとりの「人」を大切にする社会は、LGBTを含め、すべての人にとっても生きやすい社会になるはずです。


※この記事は「QWRC(くぉーく)」発行「LGBT と医療福祉<改訂版>」冊子より一部抜粋し転載しました。
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